平成29年度総会・症例検討会
平成30年3月17日(土) 15時より
於 大阪ヨシダ本店 (四ツ橋)
総会
司会 小川 歓
ごあいさつ 「歯性感染症を考える会」会長 坪井新一
連絡事項
1.抗生物質感受性試験用ディスクの変更について
2.Vancomycinの局所投与について
小川 歓
症例検討会
1.「歯性上顎洞炎ですが、どうしましょう?」
京都市開業 上村 学
2.「CO2レーザーを使った根管治療の細菌学的評価」
大阪府開業 石田 哲也
3.「Vancomycinの感受性試験と局所投与の方法」
大阪市開業 小川 歓
4.「Vancomycin根管内局所投与時に留意すべき事項について」
大阪歯科大学 細菌学講座 准教授 山中 武志
抄録
連絡事項
1.抗生物質感受性試験用ディスクの変更について
会員諸氏にお使いいただいている抗生物質感受性試験用ディスクが仕様変更になりました。使用方法は変わりませんが、パッケージが変わり1本づつの包装になっております。
また、ディスク表面の印字も変わっており、使用時に確認をお願いします。
2.Vancomycinの局所投与について
世話人小川が試用しているVancomycinの感受性試験と局所投与を会員の皆様にも使用していただこうかと思っています。問題点等について山中准教授のお話を含めて考えたいと思っております。
小川 歓
症例検討会
1.「歯性上顎洞炎ですが、どうしましょう?」
うえむら歯科医院 上村 学 京都市開業
患者さんに鼻が詰まるという主訴があり、大臼歯の不十分な根管充填を見つけた場合や、耳鼻科から直接歯性上顎洞炎の診断で来院された場合、どのように治療を進めていこうか躊躇する事があります。
X線写真で明らかに上顎に歯根が突出している場合、距離がある場合、歯は一見問題ない場合など様々です。
「耳鼻科で問題ないと言われたけど、歯科の問題ではないと言われた。私はどこに行けば?」というケースもあるのは事実です。今回、歯性上顎洞炎に対する処置について、諸先生のご意見をお伺いできれば幸いです。
2.「CO2レーザーを使った根管治療の細菌学的評価」
大阪府開業 石田 哲也
CO2レーザーに関わって26年、根管殺菌の文献が日常臨床の感じと違っていましたので実際どうなんだろうと思い、「」歯性感染症を考える会」で教えていただいた細菌培養で私なりの結果が出ましたので報告させていただきます。
3.「Vancomycinの感受性試験と局所投与の方法」
大阪市開業 小川 歓
感受性を示すがすっきり消えない、現在使用中の抗生物質6種に対して阻止円が小さく抗生物質局所投与でも効果が薄い、などのケースに対するアドバイスを細菌学講座の山根講師にいただいて、2年ほど前からVancomycinの局所投与を試してまいりました。具体的な方法と実際の使用についてお話させていただきます。
皆様にもご活用いただいたらいかがかなと思っております。
ただ医科においては、MRSAに対し唯一効く抗生物質であり安易に投与しないという傾向があります。全身投与ではなく局所投与なので感受性菌の耐性化が懸念されるとは考えにくいですが、その点については山中准教授にお話しいただきます。
バンコマイシンをよく使用される先生には、感受性ディスクを用意しました。
滅菌ピンセットなどで中央に置いて判定してください。
4.「Vancomycin根管内局所投与時に留意すべき事項について」
大阪歯科大学 細菌学講座 准教授 山中 武志
バンコマイシンは1954年に発見された、Amycolatopsis
orientalisが産生するグリコペプチド系抗生物質で、ペプチドグリカン前駆体末端のD-Ala-D-Alaに結合し、細胞壁合成を阻害します。テイコプラニンとともにメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染治療の切り札として使われておりますが、近年、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌が出現し、社会問題となっています。根管への直接投与における注意点としては、やはりバンコマイシン耐性菌を作らない、増やさない努力に絞られると考えます。感受性試験後に適正に抗菌薬をお使いの本会の先生方には杞憂かもしれませんが、口腔常在細菌におけるバンコマイシン耐性遺伝子伝播の可能性を中心に、近年の知見の整理を試みます。
バンコマイシン耐性機構は、細胞壁の作用点であるD-Ala-D-Ala部分がD-serine(セリン)もしくはD-lactate(乳酸)に置換されることで生じます。耐性遺伝子の伝播は腸球菌のなかのEnterococcus
faecalis, E, faeciumのプラスミド上のvanA、vanBが接合により他の細菌に受け渡されることが主ですが、バチルス属の一部はvanZ、ラクトバチルス属のほとんどがvanE、vanXを保有し耐性を示すことも知られています。すでに齲蝕病巣から分離された黄色ブドウ球菌がvanAを獲得していることや、口腔レンサ球菌のStreptococcus
gordoniiの産生するフェロモン物質が、腸球菌から口腔レンサ球菌へのバンコマイシン耐性遺伝子の伝播を促進することも報告されていますので、根管内感染細菌の組み合わせによっては注意が必要となります。このあたりの知見を交えて、難治化した根管の無菌化に向けたバンコマイシンの適切な応用についてディスカッションしていただければと考えております。